UPDATE:2015/10/14
21世紀に入り、15年がたちました。「従来からの常識」20世紀型経営では立ち行かない現実が、毎日のように起こっています。P.F.ドラッカー(2005年満95歳没)氏も、「今までの歴史上見たことのない未来が始まる」と警鐘を鳴らしていました。晩年の著書「ネクスト・ソサエティ(2002年)」論文「明日への指針(DHBR2003年11月号)」などを参考(全く古くは感じられない)にして、前回のコラム「変わりゆく経営」「マネジメントの未来」に続いて完結編、企業の国際競争に目を向けたドラッカー氏からの「日本への期待」を整理していきたいと思います。欧米企業だけが相手ではない、複雑化するグローバル競争の中で、日本企業が存在感を発揮し、勝ち抜いていくためには、改めて「日本の強みとは何か」を問わなければなりません。ドラッカー氏の視点を通じて、認識しておかなければならない「日本の5つの強み」を整理していきます。
1)イノベーション、変化適応力
日本は永らく成熟・衰退期を迎えているようで、イノベーションを起こすのが苦手ではないかと、自信を失っている空気もありますが、ドラッカー氏は次のように答えてくれています。
「日本ほど素早くイノベーションを実現したり、変化に適応したりする術を心得ている国はありません。」見ている時代の流れも違うのですが、江戸時代以降の基礎学力(高水準の識字率)と信頼関係に基づく組織力が日本の独自性あるイノベーションを生み出し、近代経済を発展させた礎になったと指摘しています。「明治日本の産業革命遺産」に見るように、実は日本は大きなイノベーションを生み出して現代を迎えているのです。
2)長期的な展望に立って仕事に取り組む
ドラッカー氏の指摘では、アメリカのような短期的結果を求められる経営では、大きな変革・持続的成長を実現できません。長期的な展望に加えて、「日本のために」「世界で認められるために」という大きな視野を持つことが重要です。日本には、そうした数多くのリーダーが思い切った決断をし、わずか50年でアジアで唯一の近代化を成し遂げ、致命的な打撃を受けた敗戦国をわずか30年で世界トップクラスの近代国家に導いた実績がある、ということです。国際的な西洋経済中心の世界で、日本だけがアジアの中で認められたパートナーであり、世界を知っています。日本の果たすべき役割は、経験・実績を活かしたアジアのリーダーとなり、世界の橋渡し役となることです。
3)「系列」に代表される企業間信頼関係
系列は「個々の企業の集まりでありながら、他の企業の見通しや経験を共有できる」企業間の深い信頼関係です。他にも、従業員同士の人間関係や身分が違ってもお互いをリスペクトし合う精神などは、ドラッカー氏にとって心から願う、失ってほしくない日本の長所であるそうです。
4)変わることの適応力がありながら、内面の強さを持つ
何かをしようと決心し、徹底的に学び、実際に変わる。このことも驚くべき力ですが、そのくせ、日本らしさが損なわれることがない。日本が西洋化したのは外面だけで、内面は日本人そのままである。文学や文字、文化のほとんどは、中国から来ていますが、けっして中国人に同化しているわけではありません。
5)アウトサイダーとしての役割を重視
ドラッカー氏が最後に指摘している日本の最大の利点は「東洋にも西洋にも属していない」ことです※。どこにも属さないアウトサイダーは、インサイダーになれないために孤独であり、それゆえに他者を理解しようとする。「他社を忖度し、理解する能力に優れている」そうです。日本は世界の国々がそれぞれ異なることを知っており、日本と同じであるべきだとも思っていない。このような対応力、臨機応変さが日本人ならではの強みなのです。
※この点は、あの名著「文明の衝突(1993年ミュエル・ハンチントン著)」にも解説があります。「これからの国際社会は「国対国」より「文明対文明」の衝突に着目しなければならない」。世界は8つの文明に分けられるが、日本だけ唯一単独国家で固有の文明を持つとされる。日本が特徴的なのは、最初に近代化に成功した非西欧の国家でありながら、西欧化しなかった点である。しかし、他国との間に文化的なつながりがなく、孤立する国家であると指摘しています。
いかがでしょうか。「アウトサイダーとしての役割」は非常に示唆に富んでいる洞察と思えます。日本人として認識すべき新たな一面を感じさせます。ここに整理した「日本の5つの強み」は、ドラッカー氏の客観的な分析であると同時に、温かい応援であると感じます。お読みになった方々の明日からのマネジメントに少しでも参考になれたら幸いです。我々日本人は、日本の強みを再度認識し、世界での役割を考え、明日の社会にいかに役立っていくことができるか、具体的な実践につなげて考えていきたいと思います。長期的展望と広い視野、客観的なご指摘に改めてドラッカー氏に感謝いたします。